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Short story

 
 - クリスマスの思い出 -
    (幼き頃の記憶)

                      【最終章】







 セレスが孤児院に着いた頃には、パニは深い眠りの中にいた。
 泣き疲れたのだろう。抱きかかえるセレスの腕の中で小さな寝息を立てていた。
 玄関の扉を開け、家の中に入ると、申し訳なさそうに立つベルーガと心配そうな顔をした
 アムニスの姿が目についた。
 「大丈夫よ」と言う風に、二人に笑顔を向けるセレス。
 その表情にホッと胸を撫で下ろすベルーガとパニの元に駆け寄るアムニス。


「ねえちゃん・・・」


 セレスの腕の中で眠るパニの姿を見ようと、一生懸命背伸びをしながら覗き込む。
 そんなアムニスの頭を撫でながらも、セレスはパニを離そうとはしなかった。


「・・・・パニお姉ちゃんは大丈夫よ。今は、ゆっくり寝かせてあげましょう。ね?」


 パニを起こさないように、小さな声でアムニスに話しかける。
 その言葉に、アムニスは無言で頷きそっとセレスの傍から離れた。
 
 その日の夜は、セレスの部屋にパニを連れて行き、同じベッドで眠る事にした。
 分厚い毛布を掛け、パニが寒がらないようにとしっかり抱きしめる。


「・・・ん?」


 少し、強く抱きしめ過ぎたのか、寝ぼけ眼のパニがセレスの顔をじっと見つめている。


「あら・・・。ごめんごめん。苦しかったかしら?」


 セレスの問いにフルフルと小さく頭を振ると、自分からセレスの胸の中に顔を埋め始め
 る。そんなパニの様子を見ながら微笑み、静かに、そして優しく頭を撫で始める。


「まだ、眠ってていいのよ・・・。大丈夫。私はちゃんとここにいるから。ね」
「う・・・ん・・・・」


 セレスの言葉に安心したのか、再び深い眠りについていくパニ。
 いつの間にか降り始めた、雪の積もり行く音と、腕の中で眠るパニの可愛い寝息が部屋
 中に響き渡る。
 何かの夢でも見ているのだろうか。眠っているパニの目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
 頬を伝い落ちる涙を、セレスの手が優しく拭ってゆく。そしてセレスも・・・・パニと同じよう
 に一筋の涙を流したのだ。
 そっとパニの頭や背中、顔に触れながらセレスの口が動く。


「ごめんね・・・。ごめんね・・・パニ・・・」


 涙を流しながら謝罪するこの言葉の本当の意味を、幼き頃のパニは知る由もなかっ
 た・・・。



        ***********************



 翌日の朝。
 
 目を覚ましたセレスはパニの異変に気づく。やはり、薄着のままで外に出たせいで風邪
 を引いてしまったようだ。
 顔を赤く染めながら、苦しそうな表情を見せるパニ。それでも、症状は軽そうで、発熱と
 咳だけのようだ。


「今日一日ゆっくり寝てましょうね。何か欲しい物あるかしら?飲み物とか・・・」


 パニの様子を伺いながら、いつもの笑顔で話しをするセレス。少し荒い呼吸をしながら
 も、セレスの顔をじっと見つめながら、小さな声で呟く。


「ホット・・・ミルク・・・・欲しい・・・・」


 口の端を軽く上げ、笑って見せるパニだったが、声を出すと咳が出るようだ。ゴホゴホと
 体を折り曲げながら激しく咳き込む。
 そんなパニの背中をゆっくりと擦り、咳が治まるのを待つ。


「ふふ。甘いホットミルクにしようか?お砂糖入れてね。あとは軽い食事とお薬も・・・」


 セレスの言葉に無言で頷くパニ。そして、「またあとで・・・」と言い残し、セレスは部屋を
 出て行った。
 「はぁ・・・」と大きく溜息をつき、布団の中にモソモソと潜るパニ。
 どこからともなく孤児院の子達の楽しそうな声が聞こえてくる。外で雪遊びでもしている
 のだろう。だからと言って羨ましいと思う事は出来なかった。
 パニの中で渦巻く昨日の出来事。もう両親と会う事は出来ないだろうと言う絶望感は、
 そう簡単に消え去る訳がない。
 それでも、この現実を受け入れなければ・・・と、必死に自分に言い聞かせながら、ふた
 たび眠りにつくパニだった。



        ***********************



 台所で昼食の準備をしているセレスの後ろをウロウロするベルーガと、ベルーガの足元
 に引っ付いて歩くアムニスの姿があった。
 パニが熱を出した事を聞きつけて心配しているのであろう。何か手伝う事はないかと
 様子を伺ってるようだ。
 しかし、セレスに声を掛けるのはなんとなく気恥ずかしいのか、無言のまま辺りを歩くば
 かり・・・。


「・・・にいちゃ・・・・・・・ねえちゃん・・・へいき?」


 何も喋らないベルーガに不安がったのか、アムニスがズボンの裾を引っ張りながら口を
 開く。
 アムニスの問いにどう答えようか戸惑うベルーガに助け舟を出したのはセレスだった。


「お姉ちゃんは大丈夫よアムニス。ちゃんと眠ってればすぐに元気になるわ」
「・・・・ホント?」
「えぇ。でも、お姉ちゃんの風邪がアムニスにうつったら大変だから、お部屋に入ってはダメよ」


 くるりとアムニスの方に向くと、その場にしゃがみ込みアムニスの頭を撫でてみる。アム
 ニスも安心したのか、セレスの言葉に元気良く頷き、嬉しそうな表情を浮かべ、「遊んで
 くる」と言ってその場から去ってしまった。
 一人取り残されたベルーガは、どうしたものかと考え込んでいた。パニの容態は判った
 し、とくに手伝う事も無さそうだと察した為、手持ち無沙汰になってしまったのだ。困った
 表情を見せるベルーガの様子を見てセレスは笑う。


「ふふふ。そんなに心配?」


 セレスの突然の言葉に、顔を真っ赤にしながら慌てるベルーガ。


「べ、別にそんなんじゃ・・・。ただ・・・あいつが風邪引いたのも・・・俺が原因でもあるし・・・」


 視線をそこらじゅうに泳がせながらも、セレスの姿をチラチラと追う。


「さっきも言ったけど、大丈夫よ。ただの風邪みたいだからね。安心なさい」
「・・・・あぁ」
「・・・そうだわ。手が空いてるならお買い物と玄関前の雪掻きをお願いしてもいいかしら?子供用の風邪薬が切れていたの」
「!」


 セレスの言葉にピクリと反応を示すベルーガ。喜んで!と言わんばかりに買い物用の
 バックを手に取り、セレスから預かったお金をしっかりとズボンのポケットに入れコートを
 羽織ると、足早に孤児院を出て行った。
 孤児院から薬屋までの距離は、そう遠くはない。町自体も小さなものだから時間のかか
 る買い物ではなかった。
 ベルーガは、行きつけの薬屋に着くと子供用の薬を手に持ちレジへと並ぶ。
 ふと、レジカウンターの横にある窓から見える、隣の雑貨店へと視線が泳ぐ。
 窓際に並べられた手袋やマフラーが目についたのだ。


「お兄さん・・・買わないのかい?」


 店主の声にハッと我に返ったベルーガは、急いで会計を済ませ、そそくさと薬屋を出て
 行く。そして、先程目に留まった雑貨店へと視線を送る。寄り道をせずに、薬を早く持っ
 て帰らなければと思っているものの、イヴの日に見せた泣きながら訴えるパニの姿を思
 い出していた。


(うさぎのマフラー・・・か・・・・)


 少しだけならば・・・。と、ベルーガは雑貨店へと足を運ぶ。薬屋から見えた窓際の棚へ
 行ってみると様々なマフラーが並んでいた。
 その中に、淡いピンク色をしたふわふわのマフラーに目が留まる。マフラーの端っこには
 うさぎの柄が・・・。
 ベルーガはそのマフラーを手に取り、マジマジと見つめる。


(・・・・これか?あいつが欲しがったのは・・・・)


 肌触りを確認しながら、マフラーに付いている値札に目をやり思わず声を上げる。


「うげっ!?」


 今年の人気商品なのか、表示されていた値段は10,000G。他のマフラーは高くても
 5000G程度。当然、子供であるベルーガにそんな大金は持っておらず、セレスから渡さ
 れたお金も使う訳にはいかない。
 「チッ」と舌打ちしながら、マフラーを元の位置に戻すと、さっさと雑貨店を後にした。


(たかがマフラーのくせに、なんであんなに高いんだよ!)


 足元に積もる雪を蹴飛ばし、内心で毒づきながらも、マフラーが買えなかったかった事に
 少々しょんぼり気味のベルーガだった。
 孤児院に着くと、買ってきた薬とお釣をセレスに渡し、昼食を済ませ、一息を入れた所で
 玄関先の雪掻きを始めたベルーガ。
 午前中に遊んでいた子供達は、遊び疲れと昼食のおかげでお昼寝タイムに突入してい
 た。
 暖炉が燈る広間に毛布を敷き、団子状態になって眠っている。その様子を外から眺めつ
 つ、ベルーガは必死に雪掻きをしていた。
 一時間程経っただろうか。玄関前の雪も無くなり、そろそろ切り上げようと、道具を片付
 けていると、孤児院の窓から中の様子を覗いている一人の男性が居るのに気が付い
 た。
 金髪の頭にサングラスをし、黒羽を生やしたドミニオンだ。いかにも怪しい雰囲気を醸し
 出すその男に、スコップを構えたベルーガは声を掛ける。


「なにやってるんだよおっさん」


 その声に驚いたのだろう。反射的に飛び上がり、「ぎゃっ!」と小さな悲鳴を上げるドミニ
 オン。
 慌てて自分の口を押さえつつ、驚愕な表情をしながらベルーガの方へ振り向く。


「あっやしいなぁ・・・。ここになんか用があるのかよ?」


 手に持っていた大きなスコップを持ち上げ、威嚇しながら目の前に佇むドミニオンへと近
 づく。その行動に焦ったドミニオンの男は、両手を上げながらベルーガへ話しかける。


「ま、まった!まった!怪しくない!全然!」
「・・・・充分・・・怪しいと思うんだけど?」


 疑いの眼差しを送られ、威嚇の体勢を解こうとしないベルーガに困り果てるドミニオンの
 男。どうにかならないものかと頭の中を巡らせるも、これといった対策が浮かばないのだ
 ろう。頭を掻きつつ苦笑いをしてみせる。


「参ったな・・・。あー・・・と・・・君は・・・この孤児院で生活してる子・・・かな?」
「・・・そうだけど・・・おっさん。誰だよ?」
「その質問に、今の僕は答えられない・・・。申し訳ないが・・・」
「・・・・じゃぁ、何の用でここに居る?」
「・・・・・」
「・・・・・」


 数秒程、二人の間に沈黙が流れた。が、やがてドミニオンの男の方が大きく深呼吸をし
 再度話し始めた。


「・・・ここに・・・パニと言う子とアムニスと言う子が・・・居るはずだが?」
「・・・・・・あぁ居るけど・・・」
「やはり・・・ここに居たのか。・・・・丁度いい。君にお願いがある。これを・・・二人に渡してくれないか?」


 そう言ってドミニオンの男が差し出したのは、大きな紙袋だった。
 ベルーガは訝しげな顔をしながらも、手に持っていたスコップを下ろし、差し出された紙
 袋を受け取ってみる。
 そっと中を覗いてみると、可愛いらしい包装紙とリボンが付いた袋が二つ。


「これって・・・」


 思わず言葉を切り、ドミニオンの男に視線を送る。


「・・・・頼んだぞ!少年!」


 照れ臭そうに視線を外し、ベルーガへ背中を向け、早々に退散しようとしたが、その事を
 察したベルーガが慌てて止めに入る。


「おっさん・・・あいつの親父さんか!?」
「どうだろうなぁ・・・」
「・・・会って・・・行かないのか?っつか、あいつが会いたがってるんだ!」
「・・・・・・・」


 困ったなぁと言った表情を見せるドミニオンの男の腕を離そうとはしないベルーガ。
 無言のまま空を仰ぎ見ながら、自分の腕を掴むベルーガの手を突き放す。


「・・・・・・・」
「悪いが、僕はあの子と会いたくないのでね。その紙袋の中身も、僕が用意した物じゃないんだ」
「え・・・」
「僕も・・・とある人から頼まれたんだよ。ただ・・・それだけさ・・・・」


 「後はヨロシク」と言った感じにベルーガの頭をひと撫ですると、ドミニオンの男は孤児院
 を後にした。
 ベルーガも、これ以上引き止めても仕方が無いと感じたのだろう。追いかけることもせ
 ず、男の姿が見えなくなるまで、その場から見送ったのだった。
 
 雪掻きの道具を急いで片付けたベルーガは、手に持っていた紙袋を服の中に隠すと、
 音を立てないように家の中に入っていった。
 そして一目散に自分の部屋へ入り、ドミニオンの男から預かった紙袋の中身を取り出し
 てみる。
 水色のリボンが付いた袋とピンク色のリボンが付いた袋。
 ベルーガは迷わずピンク色が付いている袋を持つと、セレスの部屋に向かった。
 
 セレスの部屋の前まで来ると、深く深呼吸をし、静かに部屋の扉を開け、中の様子を伺
 う。部屋の中にセレスが居ない事を確認すると、物音を立てないようにベッドへと近づ
 き、すやすやと眠るパニの顔を覗きこむ。
 そっとパニの額に手を当て熱の様子を診る。薬が効いてるのだろうか。自分と大して変
 わりない事が分かり安堵の息が漏れる。
 そして、手に持っていた袋をベッドの隅っこに置き、部屋を出て行こうとした時だった・・・。


「・・・ベル・・・にぃ?」


 もそりと起きたパニの声に、ベルーガの動きが止まる。


「・・・・・おはよぅ」


 上半身を起こし、目を擦りながらベルーガを見つめる。


「・・・・悪い。起こしたか」
「ううん・・・。だいじょうぶ」
「まだ寝てろよ」
「ん~・・・・」


 半分寝ぼけてる状態のパニだったが、自分が寝ていた枕の横に置いてある袋に目が
 留まると一揆に目が冴えたのかベルーガを凝視する。


「・・・これ!」


 手に持った袋とベルーガを交互に見ながら、言葉を詰まらせるパニ。
 一方ベルーガは、「困った。」と言った表情を見せながらも、ベッドの隅っこに座る。


「・・・サンタが・・・おまえにって」


 気恥ずかしいのだろう。羽を盛大にパタパタさせながらパニの顔をチラリと覗いてみる。
 袋を持ったまま、きょとんとした表情を見せるパニ。その表情に納得がいかないのか、
 口を尖らせるベルーガ。


「んだよ?」
「・・・・だって・・・サンタさんはいないっていったの・・・ベル兄じゃん・・・・」
「ぅ・・・」


 パニの言葉に反論出来ず、どう説明したものかと困り果てるベルーガの隣で、ガサガサ
 と袋を開ける音が聞こえてくる。
 ベルーガも中身が気になるのだろう。プレゼントの経緯を考えるも、横目でしっかりとパ
 ニの行動を見ている。
 そして、袋から取り出した物を見て、二人同時に声を上げたのだった。
 パニが手にしていた物は、真っ白なロングマフラーだった。しかも、よく見てみると手編み
 のようだ。


「・・・・マフラーだ」
「うさぎじゃないけどな。・・・・不満か?」


 ベルーガの問いに、無言で頭を左右に振るパニ。嬉しそうにマフラーを巻き着け、
 ベルーガを見る。


「これ・・・ベル兄が?」
「違うさ!・・・おまえとアムニス専用のサンタクロースさ」
「!!」


 ベルーガの言葉の意味を察したパニは、勢いよくベッドから飛び降りると、部屋の窓から
 外を覗き始めた。
 右を左をと必死に覗きこむパニの姿に、ベルーガは胸が締め付けられる思いがした。


「・・・もう・・・・その人は居ないぜ?それ受け取ったの、随分前だから・・・。それに・・・持ってきたヤツもさ、頼まれたって言ってた」
「・・・・・・・」


 その言葉に、落胆した表情を見せるパニ。無言のまま窓辺から離れると、首に巻いてい
 るマフラーを握り締めながらベルーガの横に座りこむ。しばらく何かを考え込んでいたパ
 ニだったが、ベルーガの方に向くと口を開いた。


「もってきた人って、どんな人だった?」
「金髪でサングラスしたドミニオン。・・・・おまえの親父って金髪?」
「・・・ううん。黒髪。・・・お父さんが・・・来るはずないもんね・・・・」
「・・・・・・・」
「でもね、このマフラー・・・。きっとお母さんが編んでくれたマフラーだと思う・・・」
「そか。だったら、母親からのクリスマスプレゼントって訳だ!」
「へへ・・・。カンだけどね!・・・・そう・・・思っても・・・いいよね」
「あぁ」


 思わず、涙が出そうになるのをグッと堪えるパニ。
 もう泣かないと・・・心に決めていたのだ。
 例え両親が居なくても、もう二度と会えなくても、ここに・・・孤児院に居る限り寂しくない
 のだと・・・。
 母であるセレスが居て、兄であるベルーガ。沢山の弟や妹達が居るのだから、我が儘
 なんか言ってられない・・・と。


「ベル兄・・・。きらいとか言って・・・ごめんなさい・・・」
「ん・・・。俺も・・・悪かった。ごめんな」


 この時、初めて二人は笑い合った。
 ベルーガはパニの頭を撫でながら・・・。
 パニはベルーガにもたれつつ、母からの贈り物であろうマフラーを大事そうに握りなが
 ら・・・。








































   結局・・・10歳のクリスマスを最後に、両親からのクリスマスプレゼントが届く事は
   無かったんだ。
























   その代わりって言ったら悪いけど、毎年、毎年、ベル兄がサンタ役をしてくれるように
   なった。
























   すごく嬉しかったんだ・・・。本当に・・・。

































   ありがとう。ベル兄・・・。  Merry X'mas

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